フープかボールか、クラブかリボン

3/11
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 一日8時間の練習を週6日。そのサイクルをほぼ1年間繰り返し続ける合宿も4年目。膨大な練習量は今年に入って、底の開いたコップに注ぎこんでいるようで、蓄積されるどころかメモリが減り続けている。  成長しなければならないのに、今まで出来ていたところが出来なくなっている。 もう無理だ。 もう限界だ。  そう思っているはずなのに、体は動いてしまう。テレビから流れるCMの曲を無意識に口ずさんでしまうように、曲が流れれば体が勝手に反応してしまう。  今度はフープへ到達する前にミスをした。天井高く投げた固いクラブを掴み損ねた。直撃したのは顔面だった。  目が覚めたのは病院のベッド。軽い脳震盪で虚ろな視線に映ったのはコーチだった。私はチームメイトを探して、たった一度だけ視線をコーチの背後へ。  閉めきった白いカーテンが垂れ下がっているだけだった。 「誰も来ないわよ」  心まで読み取る息苦しいコーチの観察眼。 「足でまといに心配なんかする人間はいないから」  口を開けば嫌味ばかり。4年も過ごせば傷つくこともなくなった。また言っているよ。大抵その程度で消化出来る。 「そんなに足太かった? 歳のせい?」  なぜこうも人を傷つけることを平然と言えるのだろうか? こんな人間にはなるまい。こんな人間にはついてはいけない。そう毎日、何回も思いながら、私は新体操を辞めることが出来ずにいた。 「キャプテンは降ろさせない」  私はまだ何も言っていない。それでも私の退路をコーチは四方から塞ぐ。交渉の余地がないのはいつものこと。息苦しくって狂ったように叫びたくなる。 「どうしても降りたいのなら、代表を外れなさい」  コーチは立ち上がるとカーテンを開けた。私の答えなんて聞く必要がないらしく、そのまま病室から出ていった。  私は代表ではありたいけれど、プレッシャーのかかる立場にはいたくなかった。それでもメダルは欲しくって、新体操からは逃げ出したかったけれど、宿舎にはとどまりたかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!