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一日8時間の練習を週6日。そのサイクルをほぼ1年間繰り返し続ける合宿も4年目。膨大な練習量は今年に入って、底の開いたコップに注ぎこんでいるようで、蓄積されるどころかメモリが減り続けている。
成長しなければならないのに、今まで出来ていたところが出来なくなっている。
もう無理だ。
もう限界だ。
そう思っているはずなのに、体は動いてしまう。テレビから流れるCMの曲を無意識に口ずさんでしまうように、曲が流れれば体が勝手に反応してしまう。
今度はフープへ到達する前にミスをした。天井高く投げた固いクラブを掴み損ねた。直撃したのは顔面だった。
目が覚めたのは病院のベッド。軽い脳震盪で虚ろな視線に映ったのはコーチだった。私はチームメイトを探して、たった一度だけ視線をコーチの背後へ。
閉めきった白いカーテンが垂れ下がっているだけだった。
「誰も来ないわよ」
心まで読み取る息苦しいコーチの観察眼。
「足でまといに心配なんかする人間はいないから」
口を開けば嫌味ばかり。4年も過ごせば傷つくこともなくなった。また言っているよ。大抵その程度で消化出来る。
「そんなに足太かった? 歳のせい?」
なぜこうも人を傷つけることを平然と言えるのだろうか? こんな人間にはなるまい。こんな人間にはついてはいけない。そう毎日、何回も思いながら、私は新体操を辞めることが出来ずにいた。
「キャプテンは降ろさせない」
私はまだ何も言っていない。それでも私の退路をコーチは四方から塞ぐ。交渉の余地がないのはいつものこと。息苦しくって狂ったように叫びたくなる。
「どうしても降りたいのなら、代表を外れなさい」
コーチは立ち上がるとカーテンを開けた。私の答えなんて聞く必要がないらしく、そのまま病室から出ていった。
私は代表ではありたいけれど、プレッシャーのかかる立場にはいたくなかった。それでもメダルは欲しくって、新体操からは逃げ出したかったけれど、宿舎にはとどまりたかった。
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