0人が本棚に入れています
本棚に追加
清村陽菜、会社員、28歳、独身。
趣味は読書、映画鑑賞、料理。
そろそろ結婚したい年頃です。
人が出たり入ったりと忙しい店内は、せかせかと動く店員さんとわいわい騒ぐお客さん、辺りは人で溢れかえっていた。
駅前にある安くて美味いと評判の大衆居酒屋の金曜日は、思った以上の混み具合だった。
ここのお店の売りが15時から呑める大衆居酒屋であること、パッピーアワーと称して18時半まで名物の餃子と生ビールが半額で提供されること。そのため、15時から人で賑わっていた。
そんな店内のカウンター席で女2人、酒片手に陽菜はたじろいでいた。
友人の優衣がもう3杯目になるであろう生ビールのジョッキを右手で握りながら、左手で顎を乗せ頬杖をつきながら、陽菜への視線を外さないからである。当の陽菜は視線を合わすまいと俯きかげんの体勢を、席につき乾杯してからずっと貫いていた。
「はあー、いつまで話さない気よ?まったく。な、ん、で! 直也くんと別れちゃったのかしら!?」
先に口を割ったのは優衣だった。
その声とともに、陽菜は顔を上げる。彼女の顔を見ると、呆れたような、それでいて心配しているかのような、そんな表情であった。
「いや、それはまあ色々とありまして...」
「だから!その色々を聞いてるんでしょ?説明しなさいよ...!ほんとにまったくあんな良い人これから見つからないよ?」
「いやー、だからまあ、しょうがないよね?そういうこともあるよね」
「なに、開き直ってるのよ」
「はははは」
優衣とは大学からの友人で、お互い社会人になってからも付き合いは続いていた。こうやって月に何度か酒を酌み交わしている。
優衣は陽菜とは正反対で物事をずばすば言う勝気な性格だ。
お互いに無い部分を持っている自分たちが必然とそれを補うかのように、友人になるのに時間はかからなかった。
「ほんとにあんたって子は。珍しく長く付き合えてたじゃない?...結婚だって考えてたでしょ?」
直也くん、という名前の彼は1週間前まで付き合っていた彼氏のことだ。大学で優衣の友人に紹介してもらい、付き合うことになった。
優衣とももちろん顔見知りである。
お互いに結婚を意識していたはずなのに、別れるときはこうも簡単に崩れていくものだと知った。
ショックじゃないわけじゃない。
しかし、直也が別れたいというのたがら仕方がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!