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「私だって、直也と結婚すると思ってたよ」
自分の年齢が23歳頃になると、周りのごく一部が結婚し始めた。
25歳で友人の半分ほど、27歳でほとんどの友人や同僚が結婚していった。
陽菜も結婚したくないわけじゃない、できれば結婚したいと思っている。
しかしなぜだか自分が結婚をして子供を授かって、というイメージが湧かなかった。
みんなと同じ波に乗りきることができないでいた。
それでいてずっと続けてきた仕事も捨てることができなかった。辞めるという選択肢がないほど、この仕事が本当に好きなのだ。
結婚してからも仕事を辞めるつもりはなかったが、今までみたいに続けられない状況も結婚に踏み切れなかった理由のひとつかもしれない。
結局直也と別れてしまった今、そんなことを考えても無意味だが、次また同じようなことにならないために、自分の気持ちと向き合うことは陽菜にとって必要なことであった。
「そうね、でももう今更言ったって仕方ないわよ。でもね、そうやって失恋して女は強くなるって言うじゃない?だから今回のことも陽菜にとっては必要な壁?というか乗り越えなきゃいけない壁だったのよ」
「優衣......」
「よかったんじゃない?結婚する前に気づくことができて」
カチン、とジョッキをぶつけ合わせた音がする。優衣がウインクをして、ジョッキを持ち上げていた。
その音がなぜだか、陽菜にとって良い景気付けの合図のような気がした。
彼女が本当に自分を心配してくれているのがわかった。そして、慰めてくれていることを。
優衣とは違い、自分の考えや思ったことをあまり、積極的に口に出さない陽菜にとって、大学時代から変わらないそのままの優衣が受け止めてくれることがら何より心強かった。
「ありがとう、優衣」
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