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 ギラギラとした太陽が蝉の声に乗っかって俺の全身に降り注ぐ。額に滲んだ汗が目に入って染みた。 「あっつ……」  首から下げている白タオルで乱暴に拭って作業を再開する。  今日の現場は民家の基礎。しかしその広さが尋常ではない。家主は結構なお大尽様だ。乗った重機のレバーを握って慎重に地面を掘り返す。根切りは来週の月曜日には終えて砕石撒きに入らなければ予定が乱れてしまう。とは言え、まあ急ぐ事もないだろう。  あの戦争から二十年。まあ当時の俺は餓鬼だったからおぼろげな記憶しかない。でも一面焼け野原になってしまった東京のあの光景を覚えている。それが六年前にはオリンピックを開催し、去年には東名高速道路が開通するまでに復興した。  貧乏だし、現場は暑いし、仕事はキツい。でも俺たちには明日がある。今日よりもよりよくなる明日が。そしてそれを夢見ることが出来る。だから頑張れる。 「おーい」  遠くから声を掛けられた。  重機を止めて振り返ると棟梁のゲンさんだった。 「川北くん、暑いし今日はもう上がろうや。土曜だし半ドンで切り上げよう」 「え、いや。工期大丈夫ですか?俺、まだまだ全然いけますよ」 「えー、いいいい」     
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