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「……うん、いつも頑張ってくれている歩美ちゃんには本当に申し訳ないんだけど……実はね、このお店……今年いっぱい、あと三カ月でたたもうかと思ってるの。お店そのものは楽しいし続けたいとも思ってたのよ。でもね……経営資金がもう底を尽いちゃって……常連で通ってくださるお客様もめっきり減っちゃったし、きっと今が潮時なんだろうなって……」
真理子は昔を懐かしむようどこか遠い目をしながら話し続けた。
普段の状況を見ている歩美からすれば、遅から早かれこういった日が来るのは十分に予測が出来ていたし仕方がないとも思ったが真理子にとっては重大な告白のつもりだったのだろう。一言ひとこと言葉を選びながら慎重に、一通りの流れをゆっくりと歩美に説明した。
「あんまり期間ないけど、歩美ちゃん……他に良いところあったら行ってもいいからね」
お人好しという言葉がこれほど似合う女も珍しかった。思えば、過去を捨て当てもなくこの町を訪れた歩美を温かく迎え入れてくれたのも真理子だった。
歩美に支払っていた給金でさえ売上の中から捻出できていたかも疑わしい。
要するに真理子は経営者には向いていないのだ。一定の感謝の念も持っているし愛すべき人間だとは思う。だが、それだけだ。
「ううん、ママにはお世話になったし最後までご一緒させてください」
「そう……お店を閉めるといってもまだ先の話だし、通ってくれている常連のお客様方もいるから、そう言ってもらえると本当に助かるわ。残り少ない期間だけれど改めてよろしくね」
「はい、こちらこそ改めてよろしくお願いします」
そう言いながらも既に辞めた後の身の振り方を考えている自分が冷静で頼もしいと思う半面、やはり少し人間味に欠けるかな、などと自問していた。
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