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山奥のロケバス。
ディレクターに「他の出演者さんの空きまで、ちょっとここで待っていてください」と言われてから、すでに8時間が経過している。
これはあれだ。売れない芸人が「待っていろ」と言われたときにどのくらい待てるのかと言うくだらないバラエティ番組のどっきりだろう。
最初の2時間でそれは分かった。
私は分かっていて、それでも待っている。
それが私に求められている『笑い』だということを知っているからだ。
数年前に一発ギャグがおかしな流行り方をして名は売れたが、もともと自分でも何が面白いのか分かっていないのだ。
仕事があるだけでも良しとしよう。
そもそも昨日見せられたマネージャの予定でも、明後日の(もう明日だが)夕方まで仕事が開けてあった。
普段ならこまごましたガヤの仕事がぽつぽつと入っているのにだ。
これは睡眠時間も含めて24時間くらいはネタとして使えると、暗に言われているのだろう。
私も一応プロだ。求められた仕事はする。
今日の夕方くらいまで粘り、ロケバスから降りて入り口に仕掛けられている大きな落とし穴に落ちて「なんかおかしいなと思ったんですよ~」とでも言えば私の仕事は終わりだ。
何が面白いのかわからないが、今はそれがウケているのだ。
私はただ待った。
明け方、バスの外で「どさ」「どさ」と何度か音がした。
何か獣の唸り声も聞こえる。
私はどこかに仕掛けられているであろう隠しカメラに向かって、わざとらしくならない程度のリアクションを取り、それでも待った。
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