捨てたテニスラケット

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菜月がコートの反対側に立って、声をかけてくれた。 「和也、準備はいい?」 僕は、大きな声で答えた。 「いいよ」 まずは、菜月が軽く僕の車いすの近くにサーブを打ち込んでくれた。 僕は、腕を伸ばしてフォアハンドでボールを捉え、思い切り打ち返した。 打ち返したボールは思った以上にスピードが出て、菜月の逆サイドぎりぎりに入り、菜月は追いつくことができなかった。 「うそ」 菜月が驚いた声を出したかと思うと、休憩でテニスコートの周りで見ていたテニス部員から、 「おー」 という驚きの喚声が上がった。 今度は菜月が逆サイドから、 「もう一度いくよ!」 と言って、さっきより少し強めのサーブを打ち込んできた。 ボールに届かないと判断した僕は、素早く車いすを動かして、バックハンドでボールを打ち返した。 さっきより強く打ち返したつもりはないけれど、菜月からのボールのスピードが速かった分、僕が返したボールのスピードも増して、菜月の逆サイドぎりぎりに入り、菜月は追いつくことができなかった。 周りで見ているテニス部員は、静まり返って菜月と僕のテニスを注目していた。 「和也、今度は和也がサーブしてみて!」 僕が手で合図すると、男子部員がテニスボールを手渡してくれた。 「いくよ」 僕は大きな声で合図し、ボールを上にトスし、テニスラケットを上から思い切り振ってボールをたたいた。 すると、思った以上にボールが走り、菜月のコートに入ったが、これはさすがに菜月に打ち返された。 しかし、僕はすばやく車いすを動かして、何とかボールにくらいついて打ち返すと、菜月はこれを打ち返すことができなかった。 僕は、高校の頃のテニスの感覚を思い出していた。
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