4人が本棚に入れています
本棚に追加
菜月がコートの反対側に立って、声をかけてくれた。
「和也、準備はいい?」
僕は、大きな声で答えた。
「いいよ」
まずは、菜月が軽く僕の車いすの近くにサーブを打ち込んでくれた。
僕は、腕を伸ばしてフォアハンドでボールを捉え、思い切り打ち返した。
打ち返したボールは思った以上にスピードが出て、菜月の逆サイドぎりぎりに入り、菜月は追いつくことができなかった。
「うそ」
菜月が驚いた声を出したかと思うと、休憩でテニスコートの周りで見ていたテニス部員から、
「おー」
という驚きの喚声が上がった。
今度は菜月が逆サイドから、
「もう一度いくよ!」
と言って、さっきより少し強めのサーブを打ち込んできた。
ボールに届かないと判断した僕は、素早く車いすを動かして、バックハンドでボールを打ち返した。
さっきより強く打ち返したつもりはないけれど、菜月からのボールのスピードが速かった分、僕が返したボールのスピードも増して、菜月の逆サイドぎりぎりに入り、菜月は追いつくことができなかった。
周りで見ているテニス部員は、静まり返って菜月と僕のテニスを注目していた。
「和也、今度は和也がサーブしてみて!」
僕が手で合図すると、男子部員がテニスボールを手渡してくれた。
「いくよ」
僕は大きな声で合図し、ボールを上にトスし、テニスラケットを上から思い切り振ってボールをたたいた。
すると、思った以上にボールが走り、菜月のコートに入ったが、これはさすがに菜月に打ち返された。
しかし、僕はすばやく車いすを動かして、何とかボールにくらいついて打ち返すと、菜月はこれを打ち返すことができなかった。
僕は、高校の頃のテニスの感覚を思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!