捨てたテニスラケット

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車いすテニス大会が始まると、菜月や部員の皆が僕をサポートしてくれた。 僕は、いつもの練習通りの試合運びができて、順調に勝ち進んでいった。 勝ち進むにつれて、僕は周りの皆からの応援が、少しずつプレッシャーになっていった。 大会も終盤になり、僕は予想外の健闘で、とうとう決勝まで駒を進めていた。 僕自身も、ここまでこれるとは思ってもいなくて、まるで夢のような感覚だった。 決勝戦当日、僕は今までにない緊張感に襲われていた。 僕が控室で試合開始を待っていると、菜月が声をかけてくれた。 「和也、一度はやめたテニスを再開してくれてありがとう!  私は、和也とまたテニスができるようになっただけで幸せだよ!」 僕は、菜月の気持ちに答えようと、 「いいや、感謝するのは僕の方だよ!  一度はやめたテニスが再会できたのは、菜月のおかげだよ!  僕は、またテニスができるようになって、とても幸せだよ!」 と自分の気持ちに正直に答えた。 すると菜月が、神妙な面持で、僕に気持ちを伝えてくれた。 「和也、この試合、勝たなくてもいいからね!  和也が頑張る姿は、部員の皆や和也を応援する人に、十分に伝わったからね!  だから私は、この試合を和也に楽しんでもらえれば、それだけでいいよ!」 菜月の意外な発言に、僕は菜月の顔をまじまじと見つめると、菜月の瞳はとても澄んでいて綺麗だった。 僕は、気持ちが落ち着いてきて、緊張感やプレッシャーから解放されていくような不思議な感覚を覚えた。 「菜月、本当にありがとう!」 僕は、心から菜月への感謝の言葉を伝えた。 大会スタッフから試合開始の時間が来て、テニスコートに入るように指示があった。 「菜月、行ってくるね!」 僕が菜月に笑顔で声をかけると菜月も笑顔で、 「うん、和也、楽しんできてね!」 と励ましてくれた。 テニスコートに入ると、さすがに決勝戦だけあって、会場には多くの観客とマスコミが待ち構えていた。 僕は、とびっきりの笑顔で、大勢の観客の前で手を振って声援に応えた。 僕は、菜月の応援の言葉通り、この試合を存分に楽しもうと思った。
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