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『こんな事してダメなのに、、、』
風呂上がりの美津子は髪も乾かす事なく、机の上に置かれたリップを眺めて溜息をついた。
それは長方形の形をしていて、対角線の角がカットされた大人のルージュのような佇まいだった。
側面には可愛らしい文字でH.Tと書かれていた。
高橋華の物だ。
高校で月に一度、持ち物検査があり、不必要と判断された物は没収される。
このリップも没収された物だった。
高橋華は学校でも3本の指に入る美人だった。
去年、文化祭で行われた、朝日高校ミスコンテストで準優勝をしたほどだ。
優勝者はさほど美人でもない、守谷美希という生徒だった。
地元では有名な守谷議員の一人娘で、朝日高校はかなりの支援を受けていて、出来レースだと噂された。
それほど守谷美希と高橋華の差はかけ離れていた。
美津子は華の事を想像しながらリップを手に取った。
あの綺麗な長い髪、整った容姿、制服の上からでも分かる胸のふくらみ、男子の視線を独り占めするスカートからスラリと伸びた足。
美津子は気がつくと華のリップを唇に当てていた。
『華ちゃん、、』
唇に広がるやんわりとした甘い香りが胸を高鳴らせた。と、同時に罪悪感で胸が締め付けられた。
こんな事してダメなのに。という思いがより一層、華への想いを強くさせたのだった。
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