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切り揃えられた透明な爪がコンコンと机を叩いた。
苛立った加茂目の顔が近い。
白くて細い手首を掴んで、その指先に吸い付きたくなる。
そんなことしたら、友達じゃいられなくなるのにね。
「宿題、終わったの?」
「終わった」
加茂目は「本当か?」とさらに念を押してから僕のノート______正確に言えば、僕が担当している「加茂目の宿題用ノート(英)」______を奪った。
ばさっと乱暴にページがめくれ、小一時間ほど前に書き終えた「今日の宿題」が露になる。
加茂目はその美しい指で僕の書いた字を辿る。
「わざと?」
加茂目はノートに顔を向けたまま小さい声で言う。
窓の外は薄桃がかった夕空で、横顔もほのかに紅く染まっていた。
その表情は女子みたいに伸ばした髪が邪魔してよくわからない。
光に少し透けた薄茶色の髪。
「......何が」「おまえ、何様のつもりだ?」
高揚してか、夕焼けのせいか、耳朶まで赤くした加茂目に無抵抗に胸ぐらを捕まれ、中腰に立たされる。
そういえば、そうだった。
英語の宿題、ミスグリーンへのラブレター。
ふと思い付きで、彼の名前に変えていた。
生徒会総会が終わる時間までに直そうとしていて、寝てしまった。
身長は僕とそう変わらない。
そう思っていたのは、中学2年生までだ。
3年の秋には頭ひとつ分伸びて、今は加茂目が背伸びしてもキスできない距離に二人の唇は離れた。
加茂目からキスなんて、どう懇願したってしてくれなそうだけど。
「加茂目の友達のつもりだけど」
ぴしゃっと平手打ちをくらい、頬を押さえようとした手をとられ、引き寄せられてそのままキスをした。
触れるだけの短いキスをしたあと、離れた唇がまた求め合い、小さく弾んだ彼の吐息を塞ぐ。
きもちいー......。
彼の唇はやわらかく、濡れている。
「......ガムとられた」
二人の空間はミントガムの匂いでいっぱいになった。
眉をひそめる加茂目が愛しくて、またキスしようと思ったけど、やめておく。
「ごめんね、別の買ってあげるから」
「......そのガムがいい」
2度目のキスでわかった。
彼からのキスは、
壮絶に、甘い。
やばい。ときめく。
どうしよう......。
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