愛が咲いたら

2/2
前へ
/2ページ
次へ
切り揃えられた透明な爪がコンコンと机を叩いた。 苛立った加茂目の顔が近い。 白くて細い手首を掴んで、その指先に吸い付きたくなる。 そんなことしたら、友達じゃいられなくなるのにね。 「宿題、終わったの?」 「終わった」 加茂目は「本当か?」とさらに念を押してから僕のノート______正確に言えば、僕が担当している「加茂目の宿題用ノート(英)」______を奪った。 ばさっと乱暴にページがめくれ、小一時間ほど前に書き終えた「今日の宿題」が露になる。 加茂目はその美しい指で僕の書いた字を辿る。 「わざと?」 加茂目はノートに顔を向けたまま小さい声で言う。 窓の外は薄桃がかった夕空で、横顔もほのかに紅く染まっていた。 その表情は女子みたいに伸ばした髪が邪魔してよくわからない。 光に少し透けた薄茶色の髪。 「......何が」「おまえ、何様のつもりだ?」 高揚してか、夕焼けのせいか、耳朶まで赤くした加茂目に無抵抗に胸ぐらを捕まれ、中腰に立たされる。 そういえば、そうだった。 英語の宿題、ミスグリーンへのラブレター。 ふと思い付きで、彼の名前に変えていた。 生徒会総会が終わる時間までに直そうとしていて、寝てしまった。 身長は僕とそう変わらない。 そう思っていたのは、中学2年生までだ。 3年の秋には頭ひとつ分伸びて、今は加茂目が背伸びしてもキスできない距離に二人の唇は離れた。 加茂目からキスなんて、どう懇願したってしてくれなそうだけど。 「加茂目の友達のつもりだけど」 ぴしゃっと平手打ちをくらい、頬を押さえようとした手をとられ、引き寄せられてそのままキスをした。 触れるだけの短いキスをしたあと、離れた唇がまた求め合い、小さく弾んだ彼の吐息を塞ぐ。 きもちいー......。 彼の唇はやわらかく、濡れている。 「......ガムとられた」 二人の空間はミントガムの匂いでいっぱいになった。 眉をひそめる加茂目が愛しくて、またキスしようと思ったけど、やめておく。 「ごめんね、別の買ってあげるから」 「......そのガムがいい」 2度目のキスでわかった。 彼からのキスは、 壮絶に、甘い。 やばい。ときめく。 どうしよう......。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加