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『……遅くなんてないよ』
その少年の言葉は私が思っていた様な罵声や愚痴ではなく、意外なモノで、しかも……真顔だった。
しかし、その表情はどこかその言葉を待っていた様にも思えた。
『むしろ気が付いてくれてよかった。君たち兄妹はいつまでも仲良しでいて欲しいから』
少年はすぐに優しい微笑みになったが、この口ぶりから察するに少年は私たちの事を知っている様に思えた。
しかし、肝心の私にこの少年に覚えがない。
「ごっ、ごめんなさい。私、あなたとどこかで……会ったかな?」
『いいよ、分からなくて。僕はただ嬉しかっただけだから。大切な事に気が付いてくれて……だから、もうこの夢の世界から覚めてもらわないと……』
「ゆっ、夢?」
『うん。ここは夢の世界だよ――』
◆ ◆ ◆
「みふゆ……美冬!」
「ん? にっ、兄さん?」
「!」
目を覚ました事に気が付いた兄さんは、私を思いっきり抱きしめた。
「ムグ……。ぐっ……」
ただ、ものっすごく苦しい。
「すっ、すまん!」
すぐに我に返った兄さんは、事細かに私を病院に連れて来た経緯などを説明してくれた。どうやら私は公園で倒れていた所を発見されたらしい。
「ただ不思議な事に美冬を探している時、灰色の猫が現れたんだ」
「……」
「最初は構っているヒマはない……って、無視するつもりだったけど、どうもそいつが……俺について来いって言っている様に感じて」
「その猫の誘導に従って行った先に私がいた……と」
兄さんは無言で頷いた。
検査の結果。倒れた原因は疲労蓄積と睡眠不足。念のために細かい検査の為に検査入院をする事になるようだ。
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