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「新島、ちょっといいか?」
仕事の終りがけ。
丁度、三嶋がお疲れさまと言い残して部署を出て行ったのを見計らって、新島に声をかけた。
今日はあれから会話らしい話はしていなかったが、様子を見るに新島に気にした素ぶりはなかった。
その事に安堵して、さて、本題に入ろうと口を開きかけた瞬間に、目の前の新島は少し焦ったようにまごついた。
「な、何か不備がありましたか?」
「いいや、お前の仕事ぶりには不満はないよ。俺はそういうの抜きでお前と話したいからこうして来たわけ」
デスクの椅子に座ったままの新島は、俺の言葉を聞くと居住まいを正した。
握りこぶしを膝の上に作って、ぴしりと背筋を正す。
そんなに畏まらなくてもいいのに、とは思ったが新島のこれは今に始まったことでもないから何も言わないでおいた。
「そ、それって。プライベートで話があるって、そういう事ですか?」
「まあ、そうなるな」
変なことを聞くやつだなと内心思っていると、新島はいきなり立ち上がった。
あんまりにも勢いがあり過ぎて座っていた椅子がひっくり返って倒れて、派手な音が室内にこだまする。
そんなことには構いもしないで、立ち上がった新島は自分の鞄を掴んで、俺に頭突きでもかまそうかと言うほどに勢いよく頭を下げてきた。
「すいません、俺は江川さんと話すことは何もないので! 失礼します!」
早口で捲し立てると、俺の横を猛スピードで駆けて行って、部署から出て行ってしまった。
瞬きする余裕も、引き止めることも出来なかった。
本当に突拍子もなく、いきなりだったからだ。
「え?」
頭の中が混乱してて、考えがまとまらない。
なんだ? 一体、今何が起こった?
新島が、何を考えてるのか。
やっぱり俺にはわからないみたいだ。
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