貴方のことがわからない『大瀬戸 誠』

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貴方のことがわからない『大瀬戸 誠』

「やっぱ、時任さんってかっこいいですよね」 すぐ側でそんな会話が聞こえてきて、眉間にシワが寄るのがわかった。 俺の真ん前、デスクをくっつけて対面式で業務をこなしている女子二人組を見遣る。 俺と歳が一つ違いの五十嵐(いがらし) 沙織(さおり)と、ベテランの前園(まえぞの) 京子(きょうこ)だ。 俺の所属する経理部は俺以外に男の社員がいない。 女二人に囲まれて仕事しなければならないのは正直、嫌だけど。 でも、今話題に出た彼がここにいるよりは何倍もマシだと思える。 「そんなイイっすか? あれ」 誰ともなく呟いた声に、前の二人から視線が突き刺さる。 こいつ何言ってんだ、と言わんばかりの眼差しに思わず首を竦めた。 「アレ呼ばわりとか失礼じゃない? 目上の人に向かって」 「すいません……」 すかさず五十嵐が突っかかってきた。 彼女はなんというか、俺に対しての当たりが強い。 前園さんはおっとりしてて優しいから良いのだけど、五十嵐だけは好きになれない。 きっと俺のことを弟かなんかだと思ってるんだろう。 姉を持つ友達に、そういう扱いを受けるのだと、昔愚痴られたことを唐突に思い出した。
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