貴方のことがわからない『大瀬戸 誠』

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奏にぃとは10年ほど会っていなかった。 喧嘩別れして、会うのが気まずかったというのもあった。 けれど、彼が高校を卒業して県外の大学に行ってしまったから、そんな機会もなくなってしまって、もうどうでもいいやと思っていた。 昔のことだし、いつまでも気にすることもないと、そう思っていたのに。 四月、偶然に俺が入った会社の部署に、奏にぃがいた。 はじめ、彼を目にした時、なぜだか嬉しかった。 久しぶりに会って、懐かしくて。また昔のように構って欲しくて。 けれど、そう思うのにどうしてもあの時のことを思い出してしまう。 昔、まだ俺がガキで、奏にぃと仲が良かった頃。 俺は奏にぃの事が好きだった。 俺の両親は同性愛者で、俺の前でも普通にキスしたりスキンシップも沢山する。 そんなところで育ったから、俺の中ではそれが普通だった。 もちろん、きちんと女の子も好きだ。かわいいと思うし恋愛対象にもなる。 ゲイではないけれど、そういう同性同士のスキンシップには抵抗もなかったし、両親のそれにも理解はある。 気持ち悪いと否定はしない。俺を育ててくれた両親だ。普通とどこも違わない。 奏にぃに、気持ち悪いと言われるまで俺の中ではそれが普通だった。
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