貴方のことがわからない『大瀬戸 誠』

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「主任、お昼ご飯食べに行かない?」 何回目かのランチのお誘い。今日は前園さんからのアタックだった。 奏にぃはそれを毎回断る。 理由は知らないけど、彼女らのことを嫌っているわけでもないし、むしろ社交的で慕われる人柄だから、誘われて行かないことが最初は意外だった。 どうせ今回も断るんだろうな、と思っていたら俺の予想とは裏腹に、いいよ、と声が聞こえてきて、反射的に顔を上げてしまった。 「どこ行こうか。いつも社食で済ませるからお洒落なお店は知らないんだ」 「じゃあ、オフィス街に良い感じのカフェがあるので、そこでランチしましょうランチ!」 奏にぃの珍しい言動に、我先にと五十嵐が割り込んで行く。 がめついなあ、と思いながら、けれどあれが五十嵐の性格なのだから仕方ない。 俺は絡まれただけで勘弁してくれ、なんだけど奏にぃは華麗にあしらっている。 その様子を横目で見ながら、もう少しで終わりそうな仕事を再開すると急に声が掛かった。 「折角だから大瀬戸も一緒に行かないか?」 ぎょっとして前を見据えると、そこには笑顔の奏にぃがいた。 親切心だかなんだか知らないが、とても迷惑だ。 出来るだけ顔に出さないようにしていると、五十嵐が俺と奏にぃの視線上に立ちはだかって、奏にぃに抗議する。 「別に大瀬戸はよくないですか? 行きたくなさそうな顔してるし」 「かお、はよく分からないけど。大瀬戸入ったばかりだし、折角ランチに行くんだから親睦深めたいなあって思ったんだよ」 こんな事を言われてしまったら断るにも断れない。 一体何を考えてこんな事を言い出すのか、奏にぃの考えが読めないまま、俺は首を縦に振るしかなかった。
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