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俺が一緒にランチをすることになって、五十嵐は終始不満そうだった。
俺も嫌々で付き合ってるんだから勝手に一人で荒れないでほしい。
「沙織ちゃん、そんなむくれないで。折角主任がランチしようって言ってくれたんだから」
「わかってますけど……はあ」
吐き出した溜息には、ありありと不機嫌さが滲んでいる。
前園さんがフォローしてくれてはいるが、いつ俺に飛び火するかわからない。
カフェのテラス席に四人で座ってメニューを開く。
なぜか俺は奏にぃの隣で、自然と顔が引きつってしまってまともに隣を見れない。
愛想笑いなんて、しろと言われても絶対に無理だ。
「色々あるんだなあ、カフェって。僕、こういう所来たことないからびっくりだよ」
「ここ、どれも美味しいって評判なんですよ」
五十嵐はさっきから奏にぃにベッタリだ。
奏にぃが開いたメニューに顔を近づけて、かなりスキンシップが激しい。
けれど奏にぃはそれには何も言わないで、いつもと同じように当たり障りのない会話に収めている。
そこは素直にすごいと思った。
「私はランチプレートかなあ。沙織ちゃんはどうする?」
「私も前園さんと同じでいいです。時任さんは何にしますか?」
「うーん、こう沢山あると迷うなあ……日替わり定食にしようかな」
パラパラとメニューを捲って、奏にぃの視線がこちらに向いた。
それにわざと目を合わせないようにしていると、すぐ側で奏にぃの声が聞こえてくる。
「大瀬戸は何頼む?」
「え、……俺は」
「これなんかどうだ? オムライス。まっ……大瀬戸、好きだったろ」
穏やかな笑顔を向けられて、どうすればいいかわからなくなった。
とにかく、ここにはいたくない。
このまま居たら、奏にぃのことを嫌いになれない。
「俺、まだ仕事残ってるんで。失礼します」
勢いよく立ち上がると、何か言われる前にテラスから立ち去った。
奏にぃは、俺を止めなかった。
なぜだかそれにほっとして、安心する。
これ以上、深く関わり合いになりたくない。
頼むから、俺に優しくしないでくれ。
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