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今は昨日のことで、ただでさえ話しかけづらい。
それに加えてこれはかなりデリケートな問題だ。
おいそれと第三者がいる場面で気軽に話せる内容でもない。
ということは、江川さんと二人きりで話をしなくてはいけない、ということになる。
プライベートの、込み入った話だ。
ぜっったいに、俺には無理だ。考えなくてもわかる。
気負いすぎて昨日の二の舞いになるのが関の山だ。
だからといって返さなければ、それはそれで無くしたことに気づいた江川さんが困るだろう。
休む間もない業務の日々に、いらぬ悩みが一つ増えることになる。
脳内会議を繰り広げた結果、どうしたらいいかわからない、という結論に達した。
「新島君、おはよう」
背後から聞こえた声に肩が跳ねる。
大袈裟なくらいに驚いた俺を見遣って、出勤してきた時任主任は、どうしたんだ? と笑って尋ねてきた。
「おはようございます。ええっと」
どうするべきかと言い淀む。
時任主任に告げるべきだろうか。
江川さんとは同期だし、俺よりかは伝えやすいと思う。
けれどきっと他人には知られたくないことだろうし、仲が良くてもそこは線引きしたいところだ。
少し悩んで、俺は口を噤んだ。
「掃除に集中しすぎて、時任主任が入ってきたことに気づかなかったんです。びっくりしました」
いつもの調子で答えるとそれ以上、時任主任は追及してこなかった。
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