99人が本棚に入れています
本棚に追加
それに安堵して、ほっとしていると今度は別方向から俺の心臓を潰そうとしてきた。
「新島君に少し聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい。なんですか?」
「江川のこと、どう思ってる?」
いつも見せる穏やかな笑みで時任主任は聞いてきた。
どう思うか、という質問の意図がわからない。
もしかして、昨日の出来事が時任主任の耳に入ったのだろうか。
誰しもいきなりあんなことをされたら、気にするなと言われても気にする。
江川さんが俺のことで時任主任に相談して、それでこうして聞いていると考えた方が妥当だろう。
「嫌ってたりとかする?」
時任主任は核心を突いてきた。
俺はそれにブンブンと顔を横に振る。
それはない、あり得ない。
「嫌いとかそういうんじゃないです。昨日のは、正直申し訳なかったと反省しています。でも、俺が江川さんのことを嫌いだとか、嫌いになるとかそういうのはあり得ません」
確固たる自信を持って否定すると、時任主任は驚いたように目を見開いた。
なにをそんなに驚くことがあるのか。
不思議に思っていると、途端に笑顔になった。
「うん。わかった。なんだか僕が口を出す必要はなかったみたいだ」
うんうんと頷いて、時任主任は一人で納得しているようだった。
困惑げな俺に、そういうことだから、と続ける。
「江川にも伝えておくよ。新島君に悪気はなかったって」
「すいません、お手数お掛けして」
「でも江川にはちゃんと謝っておいてね。結構気にしてたから」
「はい、わかりました」
気にしていた、という言葉にやっぱりそうだったか、と肩を落とす。
きちんと、誤解がないように訂正しなければ。
決意を新たにしていると、そんな俺を放って時任主任はオフィスを出て行って、俺だけが残される。
誰もいないことを確認してから、手中に握りしめていた名刺をそっと覗き見た。
謝るついでにこれも返さないと。
最初のコメントを投稿しよう!