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「付き合ってください」『江川 雪人』
昨日の新島との件を引きずりながら、重い足取りで出勤する。
なんとなくオフィスには入り辛くて、手持ち無沙汰に休憩室に入るとそこには時任がいた。
珍しいこともあるもんだ。
時任と言えば、朝早く来てオフィスの掃除をしていることもザラじゃない。
「おはよう、どうした? こんなとこいるの珍しいな」
「ああ、江川。おはよう。なんていうか、悩み事があって。公私混同はしたくないから、始業前にどうするべきか身の振り方を決めておこうと思ってね」
時任の答えが意外で驚いた。
普段からそういう事は話さないから、悩みなんてないと思っていたけれど、こうして俺に零すんだ。
その悩み事が、ちょっとやそっとで解決するものではないことは薄々感じ取れた。
「お前でも悩み事あるんだなあ」
「そういう江川だって、何か悩んでるんだろ?」
「うん、まあ」
歯切れの悪い俺の返事に、時任はぽんぽんとソファを叩いて座れと促す。
それに従って、時任の隣に腰を下ろした。
「お前、昨日一日経理にいたから知らないと思うけど、新島のことで、ちょっとな」
「この間愚痴ってたやつ?」
「ああ、うん。帰り際話しかけたら新島のやつ、俺と話す事はないとかなんとか言って帰ってったんだよ。ものすごいスピードで逃げるように」
「やっぱり俺、新島に嫌われてるのかなあ。そんな厳しくはしてないつもりだったんだけど、難しいな」
でかい溜息を吐き出して項垂れる。
昨日帰宅してからずっと考えていたが、どれだけ頭をひねっても嫌われる理由が思い浮かばなかった。
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