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「江川は良いやつだよ」
宥めるような時任の言葉に顔を上げると、いつもの笑顔がそこにあった。
不覚にも目頭が熱くなって、慌てて手の甲で拭う。
「俺、一生お前について行くわ」
「抱きつくのはやめてよ。スーツにシワがつく」
抱きつこうとした俺を片手で制して、でも、と時任が零す。
「こればっかりは、新島君に理由を聞かない限りは平穏に仕事できないね。江川の効率が落ちると皺寄せが来るし、そうなるとまわりわまって残業地獄確定だから早急になんとかしないと」
時任の言葉通りなのだが、こうして説明されるとクルものがある。
さっきの涙が少し引っ込んだ気がした。
「そういえばお前、そういう奴だったな」
「一応、主任だから。なんとか出来なくてもなんとかしなくちゃいけないんだよ」
もっともな発言に、こいつも苦労してるんだなあと同情の念が湧き上がる。
そういえば先ほど、時任も悩み事がある、みたいなことを言っていた。
俺の話を聞いてくれたしここは、ひとつ年上の歳の功を活かして相談に乗ってやるとしよう。
けれど、意気込んでいる俺の隣、時任は不意に立ち上がった。
俺の相談タイムはどこに行ったんだ?
せっかくの意気込みをなかったことにされて、出鼻を挫かれた俺には目もくれず、時任は俺のそばから離れていく。
「江川はここで待ってて。たぶん新島君、オフィスの掃除してると思うからちょっと聞いてくるよ」
そう言い残して、時任は休憩室から出て行った。
即決して即行動に移す、なんてことはなかなかできるものじゃない。
そこに素直に感動して。
とりあえずコーヒーでも飲んで待っていよう。
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