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十分後、時任は休憩室に戻ってきた。
先ほど見た笑顔を貼り付けて、にこにこしながら。
「新島君、悪気があったわけではなかったみたいだよ」
「……あれで?」
時任の言葉に昨日の出来事が脳内でリフレインする。
悪気があっても嫌だけど、なくてもそうかと素直に納得は出来ない。
悶々としている俺を他所に、なぜか時任は笑顔のまんまだ。
まるで、俺の悩みが解決して良かったなあと言っているみたいで。
実際にそんな事はないのだけど、あの笑顔を見ているともう問題はないと言外に告げられているような気がしてならない。
「一応、江川には謝っておくように言っておいたけど」
「それ、新島には難易度高くないか? 俺とロクに口聞かない奴が、対面で話せると思うか? 思わないだろ?」
爽やかな笑みがなんだかムカついて突っかかると、そうだなあ、と時任は思案する。
「そこはちゃんと考えがあるから、江川は気にしなくても良いよ」
「ほんとかよ」
「江川、さっき僕に一生ついて行くとか言ってなかった? だったら少しは信用してよ」
揚げ足取りみたいなことを言う。
けれど、時任の言葉には間違いはない。
誠実が服を着て歩いているような男だし、もとより時任のことは信頼している。
「わかったよ、お前に任せる」
「ありがとう」
最後に見慣れた笑みを俺に向けて時任は休憩室を出て行った。
未だ足取りは重いが、ウジウジ悩んでいても仕方ない。
パン、と両手で頬を叩いて気合をいれて。
それから俺も総務部へ向かった。
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