気になるあの子 『時任 奏史』

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気になるあの子 『時任 奏史』

最近、悩みがあるのだと業務の終了間際、相談された。 同期の江川(えかわ)は、僕から見ても仕事ができるやつだ。 おそらく、悩みというのもプライベートなことだろうな、と簡単に予想がついて実際にはその通りだった。 「ウチのとこに新人入ってきたろ? 大卒の」 「うん。背が高くてスラっとしてて真面目そうな新島(にいじま)君だろ? あの子、スタイル良いよね。スーツが似合ってる」 「……それはどうでもいいんだよ。なんていうか、最近そいつが睨んでくるんだよな。俺のデスク、新島の真正面で前向けば目が合うんだけど、気づいたら毎回睨まれてるような感じがして」 「気のせいじゃない? ちょっと目つき悪いけど、何の理由もなくそんなことはしないと思うよ」 「俺もそう思って、気のせいだってやり過ごそうとしたんだけど、明らかにそうじゃなさそうな気がしてきて……俺、嫌われてんのかなあ。どう思う? 時任(ときとう)」 休憩室のソファの背もたれに寄りかかって、奢ってもらった缶コーヒーのプルトップを開ける。 実際にそのやり取りを見ていないからなんとも言えないのだけど、江川は怨みを買うような人間ではない。 そのことは同期で、長い付き合いの僕も理解してるからおそらく、どこかで認識の食い違いがあるのだろう。 そのことを伝えると、一応は納得してくれたようだ。 「でも、まったく解決してないだろ?」 「まあ、そうだね」 「お前、他人事だと思って真面目に聞いてないだろ? わかるんだからなそういうところ」 そんなことはないのだが、江川の疑いの眼差しは避けようがなくなってきた。 仕方ないので、もう少し真面目に考えようとコーヒーに口をつけながら思案する。 今の話を聞くに、悪気があってやってないんだとしたら1つしか答えはないように思う。
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