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「昨日のことは水に流すよ。気にしてない」
「ええっと、それもなんですけど。もっといろいろあって」
「いろいろって? 昨日のことで謝ってたんじゃないのか?」
訊ねると、新島は辺りを見回して少し考えた素振りをした後に、言いづらそうに口籠もった。
「ええと、その。なんていうか、……どうしよう」
会話にならない呟きに、こっちがどうしようだ。
とりあえず、立たせようと腕を掴んだところでお呼びがかかった。
「――新島君」
「は、はい」
「今なんだかものすごーくコーヒーが飲みたくなってきてね。買ってきてくれないかな? 僕と三嶋と、あと江川のぶん。ブラックでいいよ」
「わ、わかりました!」
時任の珍しい命令に、新島は飛び上がって出て行った。
本人もテンパってたと思うけど、あまりの元気の良さに言葉が出てこない。
「時任君、今のはもうちょっと自然に出来なかったの?」
「だって江川が困ってたし。新島君、そういうところは気にしてないからいいんじゃない?」
時任ならず三嶋まで、事情を知っているような口ぶりだ。
別にそれは構わないのだけど、なんていうか朝からドッと疲労が溜まったように感じる。
まだ始業前だっていうのに。
「――江川」
突然呼ばれて顔を向けると、時任がオフィスの扉を指して何やらジェスチャーをしている。
俺も一緒に行って来いってか?
確かにさっきなんとかすると言われたが、三嶋も言った通り、もうちょっと上手くやってくれても良くないか?
ここで愚痴っても俺の状況は少しも改善されないから、仕方ないと割り切って総務のオフィスを出た。
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