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江川と一緒に行きつけのバーの扉を潜る。
『ゲイバー・みよし』
電飾の派手な看板を見上げて、先に扉を潜ろうとする僕を制止するように、江川が腕を引いた。
「お前、こんなとこくんの?」
「うん」
「なんか、こう……ヤバイとこじゃないよな?」
「普通のバーと同じだよ。マスターが少し変わってるけど」
「よく来る、みたいなこと言ってたけど」
「なんていうか、ここのマスターと知り合いなんだよ。昔からの。江川、こういうのダメだった? 別のとこにしようか?」
「いいや、ここでいいよ。モノは試しっていうし。お前の言うこと聞いて間違いとか今までないし、信用することにする」
うんうん、と頷く江川にそれじゃあと扉を潜る。
カラン、とベルが鳴って薄暗い室内に足を踏み入れると、カウンターの向こう側にいたマスターがこちらを視認して、直後、満面の笑みを浮かべた。
「奏史君!」
「こんばんは、景気どうですか?」
「まあ、ぼちぼちってとこかな。座ってよ」
軽く挨拶して、カウンター席に座る。
そわそわと落ち着きがない江川を取り敢えず座らせて、ほかほかのおしぼりを手渡す。
「江川、何飲む?」
「ビール。バドワイザーってある? それで頼む」
「じゃあ、それとジントニックお願いします」
注文を済ませておしぼりで手を拭いていると、手持ち無沙汰な僕らを見かねて、マスターが話しかけてくれた。
「彼は会社の同僚?」
「同期の江川です」
「よろしく」
江川の挨拶にマスターは愛想の良い笑みを浮かべた。
穏やかな笑顔は昔と変わってなくて安心する。
口元に笑みを作る僕とは対照的に、江川の表情は少し硬いように思う。
もしかして無理に付き合っているのでは、と不安に思っていると不意にこんな質問をされた。
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