気になるあの子 『時任 奏史』

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「ここに来る客って、やっぱそういう人らなの?」 「普通にノーマルの人も来るよ。バーなんだから」 「ふうん」 そのことを気にしてたのか。 一言僕に聞くとそれきり何も言わなくなった。 初めてこういうところに来たのだから、気になるのも仕方ないことだ。 別段、聞かれたからといって失礼だと怒るような事はしない。 やがて、グラスに注がれた酒が目の前に敷かれていたコースターの上に置かれた。 僕は飲み口が爽やかなジントニックで、江川はアメリカ生まれのビールの、バドワイザー。 僕はビールは殆ど飲まないから違いはよくわからないのだが、江川曰く、喉越しが良くて美味いらしい。 「マスターってゲイの人?」 なんとも無しに聞いた江川の問い掛けに、マスターの視線が向く。 遠慮がないな、と思いながらどうフォローしようかと考えているとマスターは笑いながら江川の質問に答えた。 「そうだよ。同性愛者。パートナーもいる」 「そうなんですか」 「籍も入れてあるし、息子もいる。養子なんだけどね。昔は奏史君に色々面倒見てもらってたんだ」 「もう随分昔の話だけどね」 「ふうん」 江川の様子に、取り敢えずほっとして安堵に胸を撫で下ろす。 たまに冷やかす輩も居るものだから、江川がそういう奴でなくて良かった。 「でもなあ、相手がいるだけすごいと思うよ。俺なんかもう一生独り身な気がしてきた」 「一般的には女性が恋愛対象ってなってるけど、それに絶対ってことはないからね。世の中には色々あるんだ」 「お前、理解力カンストしてねえ? 時任のそういうところ初めて見た」 「学生の頃、僕の家のお隣が光紀(みつのり)さんとこで、よくお邪魔してたからそういうのには全く偏見はないよ」 両親が共働きで殆ど家に居ることがなく、一人で過ごす事が多かった僕は、よくお隣の光紀さんの家にお邪魔していた。 夕飯をご馳走になったり、一緒にテレビを見たり。 そういう家族らしいことは、実の親と殆どしたことがない僕にとってはとても充実したものだった。 楽しくて、ここが自分の居場所だったらいいな、とも思っていた。
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