希望は転職ではなく、復帰

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「しかし、本当にいつになったら戻れるんでしょうね」 「そうじゃな」  ホイットニー神官は楕円形でクリーム色の菓子を食べながら助手のセーファスの切実な疑問に上の空のまま答える。 「大長老!ちゃんと話聞いてるんですか?もうこっちの星に飛ばされて2年以上になるんですよ!」 「そうじゃな」  ホイットニーはまたも生返事をした。  ホイットニーとセーファスは2年と数ヶ月前まで、龍の星で転職の神殿を営んでいた。ホイットニーは150年以上もの間神官を務める大長老で、膨大な知識量、分析力、観察力、人の素質を見抜く慧眼を持ち、あまねく人々から畏敬の念を持たれていた。ホイットニーが導き、木こりから魔法使いへと転職したジョンが大魔王撃退において獅子奮迅の活躍を見せたのは龍の星でも記憶に新しい。ところがその大魔王が果てるとき、その断末魔とともに龍の星に異変が起きる。星の数カ所に亀裂が生じ、そこに存在する一部の人々、建物などが異空間へと飛ばされてしまったのだ。かくして2人は地球、しかもこの日本に飛ばされたのである。  龍の星に帰る手段は見つからず、2人は日銭を稼がねばならなくなった。そこで2人はここ「マーダの転職相談所」を始めたのである。  そのできごとからはや2年。セーファスの努力もむなしく、まだ地球から竜の星へと戻る手はずを見つけられずにいる。 転職相談所は有償であり、相談料とホイットニーによる施術料だけが2人の生活の糧である。
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