休楽部と図書館

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休楽部と図書館

 立ち上る煙が好きだった。  煙は輪を描き、広がり、霧散する。  一定の工程は子供心に楽しいものだったけど、肝心の祖父はぶっきらぼうにパイプを吹いていた。一度、祖父にタバコは吸わないのかと聞いたことがあるが、祖父は何も答えずに円を描き続けた。もともと、喋るのがあまり得意ではなさそうな人だったから、単に喋りたくなかっただけだろう。そんな祖父は、今でも縁側に座っているそうだ。  中学二年生の夏休み。祖父の家へ行くと、白肌の祖母がそう言って僕を案内した。  十年前と同様。祖父は相変わらずパイプを吹かしていた。縁側に座る少しやせた彼は、哀愁漂う背中を見せつけ、僕に隣に座ることを提案する。祖父は言葉数が少ないが、たまに話す昔話が大変興味の湧くもので、僕はそんな祖父を尊敬しているし、大切に思っていた。祖父の言うとおりに僕は隣に座った。そして、いつもの様に話を始める。学校であったこと。近所での奇妙な話、最近バイトを始めたこと。  相変わらず無口に聞き、祖父は口を開いた。  火が消えた、大切なパイプを僕に渡し。  「レン。」  祖父は、なぜか懐かしそうな顔をしていた。  「大切にしろよ?」
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