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逃げていた罰かもしれない。捨て去った物に未練を残し、向き合おうともしない私に、神さまが試練を科したのかもしれない。
結局、半端に断ることも出来ず、私は荷物を運んでいた。体育館に近づく度に、聞こえてくるメロディーに息が詰まりそうだ。
たった数年前までは、私も同じように歌っていた。心の底から音楽が好きで、何があっても続けて来られた。
それなのに、今は。
扉を開けると、会場の熱気が伝わってきた。
たかが高校生のライブだ。それなのに、心の底からの歓喜も伝わってくる。
私の仕事は、荷物を舞台裏まで届けることだ。必然的に中まで入らなけれはならない。
少し入ると、湧き上がる歓声が耳に入った。
ドキドキした。懐かしい記憶と、感覚が蘇ってくる。
不思議な気分になって、つい顔をあげてしまった。ステージ上へ視線が勝手に向かっていく──。
そこには黒川くんがいた。彼のポジションは、嘗ての私と同じ、ギター兼ボーカルだ。
その表情は柔らかく、楽しげで輝いている。歌だけを取れば、熟達しているとは言い難いだろう。
それでも、本当に彼らのステージは輝いていて、思わず魅入ってしまうほどだった。
歌が心から好きなのだと、見るだけで分かった。
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