6人が本棚に入れています
本棚に追加
気付けば、泣いていた。理由はよく分からない。ごちゃごちゃになった思考がキャパオーバーして、外に溢れ出したのかもしれない。
裏が暗かったからか、誰にも指摘されることは無かったが。
しかし、泣き顔では戻るに戻れず、私は裏庭に一時避難した──のに。
「夏香さん、こんな所にいた! 探したんですよ……ってえ!? 泣いてる!?」
中休憩の数分で、黒川くんに見つかってしまった。彼は探したと言ったが、センサーでも搭載されているのではと疑ってしまう早さだ。
「……隠れてるんだから静かに……」
「あ、すみません」
意外と判断は早いのか、黒川くんはこっそりと私の隣に座った。
彼がファンに付けられている可能性を考慮したが、どうでもよくなってやめた。
「夏香さん、見に来てくれてましたよね、どうでした?」
「……良かったよ」
体操座りし、顔を膝に埋めながら答える。これは本心だ。彼のライブは純粋に素晴らしかった。
「わ、ありがとうございます……! 夏香さんに褒められるとめっちゃ嬉しいです……!」
控えられてはいたが、声だけで分かる喜びに、妙な微笑ましさと疑問が過ぎる。
「そう言えばさ、なんでそうも私なの……? 中学の時の歌そんなに良かった?」
「はい、それはもう。だって、夏香さんたちのバンド見て、俺もやりたいって思ったんですから」
サラッと暴露された理由は、私の心に真っ直ぐ突き刺さった。痛みとしてではなく、嬉しさとして──。
最初のコメントを投稿しよう!