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「……それが、誘ってきた理由?」
「はい」
少し顔を上げると、黒川くんの微笑が見えた。直後、目が合い、逸らす。
「……あの、夏香さんは何で歌うこと辞めちゃったんですか? 何か嫌なことでも?」
「……言ったら諦めてくれるの?」
「内容によります」
不思議と落胆することもなく、思わず小さな笑みまで零れた。素直な彼のステージを見て、泣いてスッキリとしたのかもしれない。
「そうだね。親に駄目って言われちゃったから。あと、歌ってても楽しいのは私だけだったのかもって思っちゃったから……」
先程の言葉が刺さった理由は、これだ。
「そうでしたか……。でも、それって嫌いになったわけじゃないですよね。ただ手放すしかなかっただけですよね」
「黒川くんに、私の気持ちは……」
やや遠くから、黒川くんを呼ぶ声が聞こえた。バンド仲間が探しているのだろう。
「……行ってらっしゃい。残りも頑張って」
顔を見られず、埋めたまま答える。しかし、黒川くんの口から零れたのは回答ではなかった。
「親さんに、バレなければ良いってことですよね……?」
「えっ……?」
体が浮き上がる。体操座りのまま抱き上げられて、そのまま進み始める。
「な、なに……!? えぇ!?」
突然の出来事に困惑したまま、私は体育館まで連行された。
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