6人が本棚に入れています
本棚に追加
最終的に、私が下ろされたのは舞台裏だった。バンドメンバーは物珍しげに私を見ていたが、数秒で状況を理解し和んでいた。
「あの、黒川くん……?」
「一緒に歌いましょう!」
「はい!?」
潔い笑顔の黒川くんとは裏腹に、私は狼狽える。なぜ、そうも清々しく行動に出られるか、一度心理分析でもしたいものだ。
「一回だけ! お願いです、これで駄目だったらもう何も言わないので!」
顔の前で両手を合わせた黒川くんは、真剣そのものだった。幾ら憧れだと言えど、他者である私にこうも真っ直ぐぶつかってくる人など、今まで一人もいなかったのに。
「それ、本当だね……?」
「じゃあ!」
「一曲だけだからね?」
「やったぁ!」
黒川くんの勝手な行動には慣れているのか、バンドメンバーは何だか楽しげだ。即興で曲リストの変更まで始めている。
「じゃあ、後半スタートするぞ!」
全員に掛けた合図と共に、司会による放送が流れる。生徒達の歓声が、舞台裏まで聞こえてきた。
緊張する。怖い。これが終わったあと、自分がどうなってしまうか分からなくて怖い。
でも、どうしてか口元は綻んでいた。
自ら講じた、掟を破ると言うのにね。
最初のコメントを投稿しよう!