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第一志望校に入学して、早二年半が経った。
一番気の緩むこの時期、周りの生徒は部に勤しんだり恋したり、それなりに青春を謳歌しているように見える。
ただ、それが私に当て嵌るかは別で、私は退屈で窮屈な毎日を過ごしていた。
──休み時間の教室は、騒がしくて苦手だ。
教科書を読み込もうにも頭に入らない。音楽で耳を塞ぐことも出来ず、ただ喧騒に溜息を吐くしかない。
後方で、慌ただしく扉の開く音が聞こえた。相当力を入れたのか、耳障りな程の大音だ。ドンドンと大股気味の足音も聞こえる。
「あの、白井 夏香さんですよね!」
「?」
反応と同時に振り向くと、ちょうど席の真横に知らない男子が立っていた。
白井夏香とは私の名前で、高校に入ってからは誰にも教えたことがない。
はず、なんだけどな。
「えっと、どなたですか」
「俺、黒川 春馬って言います! 夏香さんは知らないと思うけど、同中です!」
「ああー……なるほど……」
簡単に辻褄が合わさり、一人頷く。この二年で、何回か同じようなことがあったものだ。
そして、その人たちには、決まって同じような話題を振られた。そう、
「あの、夏香さん! 軽音部に入ってくれませんか!?」
「……あ、いや、私歌捨てたので」
「えっ、えぇ!? 捨て……!?」
「早く戻らないとチャイムなるよ」
「あっ、本当だ! うわ、えっと、また来ます!」
音楽についての話題だ。
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