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【 大いなる力 】
・・・そうか
だからスミスは、自分から監督に交代を申し出たんだ。
あいつは俺のナックルを、いつも2、3回はパスボールするからな。
あいつが受けると、俺のワイルドピッチも増えるし。
・・・ホントは全部、パスボールだけどな
そもそもワンバウンドしたボールを、キャッチャーが後逸したら全部ワイルドピッチって、基準がおかしくねえか?
こっちはナックル投げてるんだから・・・
・・・まっいいか
・・・なるほどな
しかし、これはスミスの気遣いに感謝すればいいのか、はなから自分がパスボールをするって思っている消極性をけなせばいいのか、難しいところだな。
今日はブルペンの時から、肩の調子がおかしかった。
そういう時の俺は、結構好投する。
一度、肩をぶっ壊している俺は、今日みたいに肩の調子が悪い日はビビりながら投げる。
そうするとボールがよく動く。
力の抜け加減が丁度よくなるのかな?
まっ、肩の調子がいい時に好投出来ない、と言うのも悲しい話だけど・・・
5番のロビンソンが、サードへボテボテのゴロを転がした。
サードのビクトリーノが、とても軽快とは言い難いフィールディングでファーストに送球し、それをスミスがへっぴり腰で捕球した。
・・・なんだかなあ
守備が痛々しい感じになってきたな。
・・・なるほどな
ヒロはこの感じが嫌だったんだな
俺は嫌いじゃないが・・・ん ?
なんだが球場全体が騒然としてきたな。
フェンウェイ・パークはいつだって騒然としてるが、いつもとは違うザワザワ感。
あと4人。
6番のクルーズには、初球にカットボールを投げた。
あまり曲がらない131キロのカッター。
クルーズは振り遅れ気味に一塁線に転がした。
ファール。
俺はすぐに2球目を投げた。
ど真ん中のナックルを今度は見逃した。
ツーストライク。
俺はスパイダーマンになった気分だった。
テンポのいい投球リズムに乗り出すといつもそう思う。
ナックルを投げる投球フォームが、ビルに向かってウェブシューターから糸状の繊維を繰り出す、スパイダーマンのように思えてくる。
with great power comes great responsibility.
(大いなる力には大いなる責任が伴う)
・・・なんてね
クルーズを、最後は131キロの伸びのないストレートで、三振に打ち取った。
今日、17個目
すごいな俺
・・・すごいよな・・・ヒロ
< 透也、最近ストレートのスピン量を上げようとしてない? >
< 文句あるんか? >
< あるよ。透也はスピン量が少ない剛速球が武器なんだから、スピン量を上がるとボールの軌道が人と同じになっちゃうじゃん >
< なっても打たせねーし >
< もちろん、日本じゃ打たれないだろうけど >
< ・・・なるほど >
スタンド全体が揺れている。
そして悲鳴のような歓声が、あちこちで巻き起こっている。
・・・ヒロ、見てくれてるか?
完全試合まであと3人だぞ。
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