6 西崎透也の章

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【 大いなる力 】  ・・・そうか  だからスミスは、自分から監督に交代を申し出たんだ。  あいつは俺のナックルを、いつも2、3回はパスボールするからな。    あいつが受けると、俺のワイルドピッチも増えるし。  ・・・ホントは全部、パスボールだけどな    そもそもワンバウンドしたボールを、キャッチャーが後逸したら全部ワイルドピッチって、基準がおかしくねえか?  こっちはナックル投げてるんだから・・・  ・・・まっいいか  ・・・なるほどな  しかし、これはスミスの気遣いに感謝すればいいのか、はなから自分がパスボールをするって思っている消極性をけなせばいいのか、難しいところだな。  今日はブルペンの時から、肩の調子がおかしかった。  そういう時の俺は、結構好投する。  一度、肩をぶっ壊している俺は、今日みたいに肩の調子が悪い日はビビりながら投げる。  そうするとボールがよく動く。    力の抜け加減が丁度よくなるのかな?  まっ、肩の調子がいい時に好投出来ない、と言うのも悲しい話だけど・・・  5番のロビンソンが、サードへボテボテのゴロを転がした。  サードのビクトリーノが、とても軽快とは言い難いフィールディングでファーストに送球し、それをスミスがへっぴり腰で捕球した。  ・・・なんだかなあ  守備が痛々しい感じになってきたな。    ・・・なるほどな  ヒロはこの感じが嫌だったんだな  俺は嫌いじゃないが・・・ん ?    なんだが球場全体が騒然としてきたな。  フェンウェイ・パークはいつだって騒然としてるが、いつもとは違うザワザワ感。  あと4人。  6番のクルーズには、初球にカットボールを投げた。  あまり曲がらない131キロのカッター。  クルーズは振り遅れ気味に一塁線に転がした。  ファール。  俺はすぐに2球目を投げた。  ど真ん中のナックルを今度は見逃した。  ツーストライク。  俺はスパイダーマンになった気分だった。  テンポのいい投球リズムに乗り出すといつもそう思う。  ナックルを投げる投球フォームが、ビルに向かってウェブシューターから糸状の繊維を繰り出す、スパイダーマンのように思えてくる。    with great power comes great responsibility.  (大いなる力には大いなる責任が伴う)      ・・・なんてね    クルーズを、最後は131キロの伸びのないストレートで、三振に打ち取った。    今日、17個目    すごいな俺    ・・・すごいよな・・・ヒロ < 透也、最近ストレートのスピン量を上げようとしてない? > < 文句あるんか? > < あるよ。透也はスピン量が少ない剛速球が武器なんだから、スピン量を上がるとボールの軌道が人と同じになっちゃうじゃん > < なっても打たせねーし > < もちろん、日本じゃ打たれないだろうけど > < ・・・なるほど >  スタンド全体が揺れている。  そして悲鳴のような歓声が、あちこちで巻き起こっている。  ・・・ヒロ、見てくれてるか?   完全試合まであと3人だぞ。  
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