1 大沢秋時の章

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【 アニメのキャッチャー 】 「契約更改、明日だよね」  菜都は白ワインを飲んでいる。 「そう。11時。おれがトップバッターらしい」  2杯目を飲みほした。 「どうして1番なんだろ?」 「どうしてだろね」  ポテトを頬ばりながら首を傾げた。 「お父さん、しろくまがドラフト1位で京川を指名したね」  朔はコーンスープのコーンをすくっている。 「ああ、六大学の4冠王だってな」 「サウスポーのキャッチャーってかっこいいよね」 「すごいよな」   ・・・朔も左利きだ 「左でもプロで通用するのかな?」 「どうだろうな」 「でも、キャッチングがイマイチだよね」  朔が器用な手付きで、パスタをフォークに巻きつけている。 「まあ、おれと比べたらな」 「比べるほうが、おかしいよ」  朔が大人の表情を作ってニヤっとする。 「おうよ!」  おれも朔の表情を真似てみた。  菜都が吹き出した。そして一人で頷いている。  ・・・何を一人で納得してるんだろ? 「足も速いんだよね。って言うか4冠って3冠王プラス盗塁王だよね。これって結構すごいよね」  朔の頬っぺたがパスタで、パンパンになっている。 「えー、キャッチャーなのに足速いの? 盗塁王なの?」  菜都が目を丸くしている。 「お母さん、いつの時代のキャッチャーをイメージしてるの? ドカベン? もしかして伴宙太?」  朔がため息をつきながら菜都に冷ややかな視線を送った。 「失礼だよ。伴宙太のわけないでしょ。・・・それより、どうして朔がドカベンや伴宙太を知っているのよ。わたしのお気に入りは御幸一也かな」  菜都がフォークをグルグル回しながら朔を睨んだ。  フォークに巻き付いたパスタの塊が巨大になっている。  実は菜都、アニメにも詳しい。 「お母さんも、いいキャッチャー知ってるじゃん。ぼくは佐藤寿也が好きだね」 「野田敦もいいよね?」 「やっぱり、デブじゃん。あと阿部隆也もいいね」 「アニメのキャッチャーって、みんな『也』が付くね。んー・・・じゃあね、じゃあね松平孝太郎は?」 「もっとデブじゃん、だいたい、足の遅い選手はダメだね。しろくまのスモールベースボールには合わないよ。ね、お父さん。お父さんも昔、盗塁しまくっていたんだよね」  「おっ・・・おうよ!」    ・・・盗塁なんてもう何年もしていないな    しかしスマホを持った最近の小学生は何でも知っているな。
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