序章1 大沢朔

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序章1 大沢朔

   まずはしっかりと汚れを落とす。    革紐が切れやすい所には保湿のためにオイルを塗る。  革紐が伸びていないか?  伸びている所はしっかり締める。  これは力が必要なのでお父さんが自分でやる。    一番気を付けなければならないのは革紐とウェブの部分。  ウェブというのはミットの網のこと。    捕手のミットは野手のグラブとは比べ物にならないほど強烈な衝撃を受ける。  だって1試合で100球以上、多い時は200球以上の剛速球や変化球を受けているからね。  だから革紐もウェブも摺り切れやすい。    しろくま投手陣の中には160キロのストレートとか、高速シンカーを得意とするピッチャーがいるので特に傷みやすい・・・とぼくは思う。  ウエスにほんの少しだけオイルを付けて、ちょっとずつ薄く引き伸ばしていく。  オイルは革がカサツキ始めた時に少しだけ塗る。    だっていつもオイルを塗っていたらミットが重くなったり、型が崩れたりするでしょ。  そんな事より、しっかり汚れを落とすことの方が大事。    お父さんのミットは普通のよりかなりデカいんだ。  だから、手入れもしっかりしておかないとね。    常に自分の手のように柔らかい状態にしておかないと、ピッチャーのボールをはじいて、パスボールをしてしまったり、スローイングの時にミットからボールをうまく取り出せなくて盗塁を許してしまったりする。    0.1秒の遅れが命取りになることだってあるんだ。  ノーアウトランナー二塁とワンアウトランナーなしでは大違い。    これはピッチャーからすれば天国と地獄の違いぐらいに感じる。  ・・・って透也がメールで言っていたんだ。    だから、ミットはいつも自分の手のような状態を維持しておく必要がある。  お父さんは強肩だから、あまり心配はしていないけどね。    とにかくミットの手入れ・・・メンテナンスは毎日、欠かさずにやった方がいいんだ。  重要なポイントはしっかり汚れを落とすこと、それと保湿なんだよね。    いよいよ、来週からクライマックスシリーズが始まるんだ。  相手は大阪ユナイトアローズ。    こいつに2勝すれば、次は東京ドリームスターズ戦。  そんでこいつを倒せば日本シリーズ。  たぶん相手は福岡グレートマトリックス。  しろくまは投手王国って言われているくらい、いいピッチャーが揃っているから短期決戦に強いんだ。  シーズン成績は3位だったけど一気に日本一になっちゃうかも知れないよ。  お父さんはまだ足が完全に治っていないみたいだから、ずっと代打の切り札をやってるけど、CSはスタメンで出るかも知れないよ。    だって今年のヤマアラシときたら三振ばっかだもん。  あれならお父さんの方が期待できるよ。    ぼくもネットで見てびっくりしたんだけど、昔のお父さんの打撃成績ってすごいんだ。  まあ10年くらい昔の事だけどね。    でも今年のお父さんのスイングを見れば期待しちゃうよね。  あんなスイング出来るバッターなんて誰もいないもん。    お父さんがCSでホームラン打って日本シリーズなんて事になったら、めちゃめちゃ嬉しいんだけどな。    なんかワクワクしてきた。    ホント試合が待ちきれないよ。
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