1 大沢秋時の章

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【 豪腕GM 】  10月26日 球団事務所 「・・・戦力外ですか」  おれは自分でも驚く程のショックを受けていた。    ・・・こんな事はとうの昔に覚悟していたはずなのに    ケガによる長期離脱、ここ数年の成績、そして昨日、大学ナンバーワン捕手のドラフト1位指名。    戦力外通告は当然の流れだ。  なのにおれは、いま思いっきり狼狽えている。 「今後、大沢さんには京川聖の指導をして欲しいと考えています」  久住GMが渋い声で正面から見据えるように言った。  久住恭平、ホワイトベアーズのゼネラルマネージャー。    セ・リーグの最下位争いが定位置だったホワイトベアーズを、毎年のように優勝争いする強豪チームに変えた豪腕GM。  秋庭オーナーが全幅の信頼を寄せる本社の副社長でもある。  この人の声はいつも穏やかだ。  穏やかで紳士的なイメージ。  でもこんな話の時には、その穏やかさから圧力を感じる。    五十をいくつか超えているはずだが、髪は黒々としており身体も引き締まっており、エリート特有の若々しさと隙のなさを漂わせている。  上に立つ人間として嫌いではないが、隙がなさ過ぎて少し苦手ではある。 「あなたには大きな功績があります。球団 随一の功労者と言っても過言ではありません。大沢秋時はホワイトベアーズの顔でもあります。人気があります。ファンだけでなく選手にもです。もちろん人気だけでなく、指導者としての資質も備わっている、というのがフロントの評価です。ですからこれからもチームの強化の為に活躍してくれるものと信じています。今後は是非コーチとして力を発揮して下さい。来季はバッテリーコーチの席を用意していますので、是非よろしくお願いします」 「・・・コーチですか」  久住が頷きながら微笑んだ。  笑っているのに目が怖い、と感じたのは気のせいか。  恐らく気圧されているからそう感じるのだろう。 「急かすわけではありませんが、あまりゆっくりも出来ませんので、明日中にでも契約を終えたいと考えています。今日の明日で申し訳ありませんが、良い返事が頂けると私は信じています。明日の11時、正式に契約書にサインをお願いします」  久住が軽く頭を下げた。  ・・・明日?   GMの隣に座る真田球団社長が、柔らかい笑みを浮かべ鷹揚に頷いた。
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