ヤツはオレには甘くない

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ヒロの方もやはり、そんなオレを快く思ってはいないようだ。 家の前や廊下などで顔を合わせても、挨拶の一つもなしに、そそくさと姿を消してしまう。 「あんな無愛想な男のどこがダーリンなんだ?」と尋ねると、妹はとても幸せそうな顔をして、こう答えた。 「無愛想じゃないよ。ヒロくんの魅力はね、顔がキリッとしたイケメンで、行動が子供みたいにやんちゃでかわいいこと! むしろ、ヒロくんがお兄ちゃんを無愛想だと思ってるんじゃないの?」 無愛想なのはオレの方……確かに、そうかも知れない。 だからといって、こちらからヒロに「仲良くしてください!」と近づいていくことなどは、到底不可能に思えた――情けないが、どうしてもオレはヒロが怖かったのだ。 そう、だから、無理にヒロに近づく必要はない。好かれなくてもいいし、仲良くなれなくても構わない。 だが、同時にオレは、ヒロに対して無関心になることもできなかった。 それは、ヒロが妹に見せる、オレに対する態度とは正反対の『甘さ』を知ったからだ。 『顔がキリッとしたイケメンで、行動が子供みたいにやんちゃでかわいいこと』が魅力だという、妹の言葉通りだ。 妹を呼ぶ時の声。端正な姿に似合わぬ、ハイテンションな大騒ぎ。柔らかな表情の横顔、瞳の輝き。 ヒロの隠れた側面を知れば知るほど、次第にオレはヤツに惹かれていく。 ある日、妹とヒロが、居間のソファで仲良く寄り添ったまま眠っているのを見た。 ヒロは、本当に安心しきった様子で妹の膝に身体を預け、静かに寝息をたてていた。 その時、自分でも驚いたのだが、オレの中にはっきりと、ある感情が生まれた――それは、小さな、しかし確かな『嫉妬』だった。 なんということだ、オレもこうしてヒロと一緒に眠りたい……この無防備な姿を、いつか、オレの前でもさらけ出させてみたい。そんなふうに思うなんて。 その思いが、今、叶えられようとしている。
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