ヤツはオレには甘くない

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オレは足音をたてないようにそっと部屋に入り、静かにベッドに上った。 こちらに背中を向けた、ヒロの寝姿。呼吸に合わせて、わずかずつ浮き沈みしているように見える。 ゆっくりと、ヒロの顔に自分の顔を近づけてみる。閉じられたまぶたと、ほんの少しだけ開いた口。 のぞきこまれているとも気づかず、ヒロは規則正しい寝息をたてつづけている。 なんともいえないいとおしさが、胸にこみ上げてくる。 でも……コイツは、オレのこんな気持ちなんかわかってくれないだろう。 それなら、もう力ずくででも抱いてやる。今夜は、おまえを絶対に離さない。 オレは、ヒロの身体に寄り添って、自分の身を横たえた。 ヒロの尻がオレの腰に、ヒロの背中がオレの腹に、そして、ヒロの耳と長めの黒い毛が、わずかにオレの唇に触れた。 想像していた以上に温かい。ずっと憧れていたヒロの体温が、今、オレを包み込んでいる。 ヒロは微かに身じろぎしながら、小さな声を漏らした。 「ヒロ……」 オレは耳元で囁きながら、ついにヒロの身体を抱いた。 とたんにヒロは弾かれたように身を起こし、鬼のような形相になって叫んだ。 「フギャアアオ! シャーッ!」
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