よちよち歩き

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 私の気のせいじゃない。今、確かに赤ちゃんはいたのだ。でも煙のように消えてしまった。そして辺りを見回してもどこにもいない。  何があったのか判らず私達が立ちすくんでいると、店からコンビニの店長が出てきて、一目で何があったのか悟ったらしく『また出たのか』とつぶやいた。  私は知らなかったけれど、以前、このコンビニの駐車場で轢き逃げ事件があったようだ。  被害者は一歳を少し過ぎたばかりの赤ちゃんで、よちよちとながらも元気に歩き回っていたため、保護者が一瞬目を離した隙に駐車場に入ってきた車にはねられてしまったのだという。そして犯人は、みんなが赤ちゃんのことで騒いでいる隙に逃げてしまったそうだ。  以来、このコンビニの駐車場には時々赤ちゃんの幽霊が現れるとのことだった。  さっき首を振ったのは、もしかして、自分をはねた相手を探していて、あの運転手は該当者ではないという意思表示だったのだろうか。  だとしたら、あんな小さな子が成仏もできないまま犯人探しを続けているなんて悲しすぎる。  そんなことがあったコンビニに、私は今でもたまに立ち寄るけれど、その時稀に、駐車場をよちよちと歩く小さな姿を見かけることがある。  まだあの子はここにいるのか。自分を死なせた相手を探しているのか。  心の底から思う。一日も早く犯人が捕まるといい。 よちよち歩き…完
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