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「…………」
拳銃に触れるのは、マイから出てきた銃を処理した時と合わせて三度目だが、今度はわかる。
使い方が湯水のように脳内に湧き上がる。
マイからはもちろん弾も出てくる。そしてその武具たちはおしなべてこのクレーターに捨ててある。
この口径は……九ミリか。
「……おい、何をしている」
もはや取り繕う必要がなくなった男は、さっきとは打って変わって横暴な口調になり、行動を始めた僕を問いただす。
僕は銃弾を探していた。もちろん、僕の手を触れることで少なからず恐怖を和らげながらも、やはり焦点が定まらない目で兄を頼っているマイの盾になるように。
十数秒も探すと三発の弾丸を手中に収めた。
脳内の知識通りに弾を詰め、遅ればせながらおよそ意味があるとも思えない返答を返した。
「反撃の狼煙の準備」
「なんだと? ハッタリなら──」
「右耳の産毛」
僕は聞かせる気のない声で呟いて、撃鉄をゆっくりと引き、基本に忠実な型で構え、引き金を引いた。
放たれたスピードのみに特化した鈍の鉄塊は、刹那ほどの間隙も作らずに男の顔の横を掠めた。
いや、正確には右耳の産毛を焦がしつつ、だが。
彼もそれを感じたようで、銃弾が当たってすらいない右耳を手で抑えて後ずさった。
ありもしない傷を、迎えていない死を恐れる顔だった。
「マイ、大丈夫だったか?」
さらなる反撃の機を伺う様子もないので、マイの安否に意識を回した。なるべくうまく衝撃を殺したつもりだったけれど、想定外の反動が伝わっていないとも限らない。
「うん……大丈夫。お兄ちゃんは?」
「大丈夫だ。いつも通り、任せろ」
マイの様子は、良くも悪くも変わっていない。
さて、妹の笑顔のためにも、早くこの包囲網を脱しないと。
僕は再び男を見た。男の目を飛矢のようにまっすぐ見つめた。
「家に帰りたいので、通してくれませんか?」
僕はにっこりと笑っていった。相手が窮鼠のように怯えていれば、笑顔はかえって恐怖を助長する。
「巫山戯るな、餓鬼が」
追い詰められたネズミは猫にすら噛みつくように、恐怖に支配された人間は立ち直ろうとするとき、何か他の感情で埋め合わせをする。彼の場合は怒りしかその種類がないようだ。
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