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三人目は直線的な動きではなく、理性もある程度は残していたけれど、視覚をやられ、聴覚に頼っていたので、瓦礫を明後日の方向に投げたらそちらへ向かっていった。
四人目。
「…………」
まあ、瓦礫の山の上からこの展開は読めていた。
あいつは僕の行動を一番近くで見て、僕の意図に思索を巡らせられたから、あの閃光の損害を被らなかったのだ。
「……やあ」
もう本性は晒したというのに、忘却したが如く、白々しい慇懃な表層で覆っている。
さて、これまでの三人とは違って、相手は万全のコンディションだ。それに僕はマイを背負っているので小回りが利かない。
だからといって、マイを降ろすつもりはこれっぽっちもない。周りには命令ゾンビが彷徨いている。敵の目的はマイだ。もしかするとそのために狂ったふりをしているだけの奴もいるかもしれない。
それこそ、その命令が下されている可能性も低くない。
「……名前は?」
「桐峰銃といいます。大嫌いな名前です。銃も嫌いです」
「じゃあ、さっき使ってた銃はどういう了見で?」
「効率を目指しました。まさか躱されるとは思ってなかったですが」
というわけで、これです。
──刃渡り三十センチほどだろうか。男が懐から剥き身のナイフを取り出した。いや、その様はもはや小刀だ。
「……よくそんな物を剥き出しで持てますね」
「ええ、慣れてますので」
「そうですか。僕では敵いませんね」
「やっと認めてくれましたか。さあ、マイさんを渡してください」
「断る」
「……っ」
今度は学習してきた。先程のように逆上して攻撃してくることはなかった。まあ、相当に堪えている様子だが。
「……まともに戦ってあなたに勝ち目が無いのは、さっきあなた自身が認めたことですよ?」
「さっき? 僕はそんなことを言ったんですか?」
「『僕では敵いませんね』」
「……それが?」
「戦いには年季の差が如実に現れる。そして私はあなたの二倍は生きています。あなたは自分は敵わないと自らの口で言った。敗北宣言をしたのです」
「へえ……じゃあ、確かめてみましょう。あ、僕はマイを背負っているので、気をつけてくださいねっ」
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