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その病気の蔓延がテレビで危惧され始めてから、終焉への鐘が鳴るまでに、そう長い時間はかからなかった。
最初の感染が確認されてからわずか一年で、世界人口の半分が病にかかり、その内の半分が感染から間もなく亡くなった。
老若男女問わず。
その病気については分からないことが多すぎた。
少なくとも既存の病ではなく、名前は存在しなかった。
国連が会議で定めた名は『タナトス』。
ギリシャ神話において、『死』を神格化したといわれる神だ。名前の意味なんてどうでもいい。名付けに意味が無いとは言わないが、そんな些事を議論するくらいなら医療面への設備投資を潤沢にしておいて欲しかった。まあ、何を言おうと後の祭りだが。
タナトスの厄介な点は、症状が個人によって異なるという点だ。
僕が聞いた情報によると、骨が脆くなる、排泄ができなくなる、五感の一部、または全ての消失、突然致死量の血を吐き出す、妊娠していたはずの胎児が一晩のうちに消える、体から金属片が突出する、臓器が消える、脳が溶ける、皮膚から薬品が現出するなど、調べ始めるとキリがない。
おまけに、症状によって治療法や治療薬が異なり、しかもそのほとんどが未知の手法という、完全に人類の敵の様相を呈している。
しかし、悪影響ばかりを及ぼすものではなかった。
それはもしかすると副作用的なものなのかもしれないけれど──感染者の一部に、身体能力や知能指数など、能力の向上が見られたのだ。
おまけに、それが見受けられた罹患者の中から死人は出ていない。
事実、タナトスの一部の症状に対して治療法を確立したのは他でもないタナトス罹患者だった。
それも、医療の知識なんて何もない、一般人だ。
しかしそんな彼女でも、全ての罹患者に適した共通の治療法は見つけ出せなかった。
どこから発生しているのかも分からず、感染経路すら把握できない。にもかかわらず、人を死なせたり、逆に力を与えたりするのだ。
タナトスのお陰で、百メートル走などのいくつかの世界記録が塗り替えられたりしたのだが、人類の損失とは比べるべくもない。
ちなみに、人間以外の動植物に関しては、人類より体が大きな種にのみ感染が確認されている。症状には人類同様、一貫性がない。能力の向上も同様だが、やはり法則性は見られない。
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