タナトスと世界

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 はじめの感染が確認されて二年が経ち、世界中の名医、タナトス罹患者を総動員しても、未だ特効薬開発には至っていなかった。どうして症状が異なるのか、なぜ能力が向上するのか。  何も解明されず、世界人口は二年前の十分の一にまで減少した。  その最中だった。  世界中を巨大地震が襲ったのは。  いや、巨大なんて言葉で表現することが正しいのかすらも怪しいほどだった。  全世界が揺れたのだ。  マグニチュードにして十一。これは、恐竜絶滅の要因にもなったとされる規模だった。  当然、未曾有の大災害となった。  特にこの異常な震災は、普段揺れのない地域まで巻き込んだため、一帯の免震装置のないビルは軒並み──つまり世界のほとんど全ての建造物は──全壊した。  日本などの災害大国を以ってしても、驚くことに三階建て以上の建造物は軒並み全壊、二階建ての一軒家ですら、半数が全壊、残ったものも殆どが半壊という凄惨さだった。  残ったのは多くが平屋だった。  都合の悪いことに、地震発生時刻は日本時間の午前零時。多くの人が室内にいた。そのせいで、死者は建造物倒壊による圧死者が多くを占めた。  死者は、当時の日本人口の四分の三。地方よりも、高層ビルの多い都市部の方が死亡者は多かった。  僕の住んでいた地域は、それほど都会でもないくせに、やけに死亡者が多かった。  それは当然、二次被害が建物の倒壊だけに留まらないからだ。僕の地域は火事によるものだったが、津波によって亡くなった人が全体の四割を占める。  世界人口はタナトス流行前の三十分の一になった。  世界は終末を迎えた。  数少ない生存者がタナトスの凶刃によって次々倒れ出した頃、生き残った国の要人が手練手管を駆使して(当然交通網は機能していない)、一堂に会した。  そこでいくつかのことが確認され、これからのために何をすべきなのかが定められた。  まず、人類が危機的状況であること。満場一致だったらしい。地震の後もタナトスの猛威は一切の慈悲を見せず、むしろ加速度的に人口は減少している。  人類を救う為に世界は『生存都市』を作ることで合意した。  生存都市。  タナトス特効薬の開発のためだけの都市。世界中の医者、研究者、(能力向上の有無にかかわらず)タナトス罹患者が生存都市に集められた。
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