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「お兄ちゃん、起きて」
「…………」
妹のいない人からすれば、朝妹に起こされるなんていうのは、数ある萌えシチュエーションの中でも、そのレベルは頭一つ抜けている代物らしいが、兄の僕はそんなことは全く思わない。
妹に萌えるのは、妹に対して好意的な感情が既に芽生えて、あるいは結実しているからなので、僕にはその現象は起こりえない。
第一、妹に恋心を抱く兄なんて、気持ち悪いだろう。そんなのはフィクションの中だけで十分だ。現実に飛び出してくるな。
ああ、鬱陶しい。
「やめろー、耳元で囁くんじゃない。寒気がする」
伸ばし棒をつけることで寝ぼけている様子を演出してみたのだがどうだろう。
「目は覚めてるんだね。早く起きて、お兄ちゃん」
むう、駄目か。見透かされている。
「はいはい、起きた」
「おはよう」
「おはよう、マイ。今日の天気は?」
「これ以上ないくらいの曇天」
「期待させておいて落とさないでくれ。ただでさえ、寝起きで機嫌が悪いんだから」
「その割には、お兄ちゃん笑ってるよ?」
「違う、微笑んでるだけだ」
「それ、違うの?」
「定義は違う」
今の世界では生存都市に住む人間を『都会人』、生存都市以外に住む人間を『平民』と呼ぶ。まるで平民が劣っているかのようなネーミングだが、世界が決めたことには今更抗えない。
都会人の主な目的は当然研究だが、彼らが万全の状態で探究できるように、生存都市には研究職以外の人間も数多いという。
農家だったり、酪農家だったり、食料確保のための人員だ。
では、平民がどのように食糧を調達しているかといえば、基本的には自給自足だ。みんな、他人に食べ物を分け与える余裕なんてないから。
僕ら兄妹の一日も、朝食の後にはすぐに食糧探しだ。すぐ近くに森があるので、味はともかく、飢えることはない。
朝食には昨日採った食材を残しておく。
「……さて、じゃあそろそろ行くか」
「うん!」
森の広さがどれくらいなのか、一度調べたことがある。太陽が真上に来るまで歩いてみたが、まるで終わる気配がなかった。
採れるのは木の実、きのこ、野草。たまに鹿やイノシシなんかの大型動物も罠にかかる。
今日はどうやらかかっていないようだ。
前に獲物がかかったのは一週間前。頻度は上がっている。干物にもしてあるので、もうしばらくは平気だ。
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