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午前中は二人別々に探索し、昼で籠がいっぱいになり、待ち合わせ場所の樹の下で、小休止。
マイが言った。
「お兄ちゃん、そろそろ……」
「ああ」
僕は物欲しそうな顔をしているマイの手を握った。木陰から立ち上がり、森の中心へ向かって一緒に歩く。
二十分ほど行くと、目の前にクレーターが現れた。深さは十メートル、直径は百メートルは下らない。
その中央部にあるのは、機械の残骸だ。
一番下にある小型の飛行機を皮切りに、乗用車、トラック、ショベルカー、タンクローリー、自動販売機、パソコン、電車、洗濯機、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、ラジカセ、ミシン、その他よくわからない機器が放棄されている。一体これを誰がこんな山奥に持ってきたのか、考察してみたりしたのだが、納得のいく答えは出なかった。
二人で手を繋いで、坂道を下る。
マイの足取りがおぼつかないので、手を繋いでいないと危なくてみていられないのだ。
「お兄ちゃん……、お願い」
標高五メートルほどだろうか、瓦礫の山の一画に辿り着き、僕はマイの声を待たずに行動を起こしていた。
一際大きなのショベルカーのアーム、いつも通りの場所に立てかけていた標的を車の鉄扉に決めた。窓はついていない。大斧を両手で振りかぶる。
「下がってろ」
毎日言っているので、もう必要性は感じないが、マイの身を案じると無意識に口をついてしまうのだ。
狙いを定め、振り下ろす。
ギャン! とでも形容すればいいのか、金属音と火花と共に、扉のフレームが真ん中で二分された。もちろんこれでは取り離すには至らないので、もう一箇所、同じように振り下ろす。
決して心地良くはない音とともに、長さ三十センチほどの鉄片が転がり落ちた。
「ほら」
それを拾い上げ、マイの手に渡した。
「……お兄ちゃん」
「ああ、わかってるよ」
僕はマイに背を向け、再び斧を振りかざした。同程度の鉄片を作るためだ。本当は衛生上の問題で、水などで良く洗って渡したいのだが、生憎そんな余裕はない。
聞かないように努めていても、作業の合間に背後から聞こえてしまう、金属を噛み砕く音。
当然普通の人間にそんな芸当は不可能である。
マイはタナトス罹患者だ。
その症状は『体から武器が現出する』こと。肌を透過するように、武器が浮かび上がってくるのだ。
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