平穏の揺らぎ

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 この斧だって、マイの体から出てきたものだ。武器の種類は多岐にわたり、小さい物では手榴弾、拳銃、ナイフ。大きめになると、刀や斧、アサルトライフルなんかもあった。現出に一定のタイミングはなく、朝起きたらマイの横に機関銃が置いてあったこともあった。  武器には一定量の鉄が含有されている。その鉄は、当然ながらマイの体内の鉄分が引用されているらしく、マイは慢性的に貧血気味だ。毎日昼頃には本当に体調が悪くなるので、こうして『鉄分』を摂取しに来ているといわけだ。  マイにタナトスの症状が現れたのは半年前で、最初に出た武器は包丁だった。しかしその時はそれがタナトス の影響だとは気づかず、ちょうど刃物が欲しかったのもあって、不審に思いながらもしばらくは普通に使っていた。  僕がタナトスの症状だと最初に疑ったのは、先に触れた機関銃の時だった。どうやらマイはその少し前から気づいていたらしく、森の中にその武器を隠していた。  刃物は生活に利用した。刀や斧は薪とり、銃は狩りに有効利用した。  鉄分摂取の必要性を最初に思いついたのはマイだった。その時のマイは貧血で寝込んでいた。  何か金属を口に……と、消え入りそうな声で言うので、怪我をしないように輪にした針金の中途を口に近づけた。彼女は唇で(くわ)え、すかさず噛みついた。針金が潰れるような感触とともに、マイの喉の音が部屋に響いた。  当該部位を見ると、案の定針金が切れていた。  マイが噛み切ったのだ。  どうやら、歯の強度まで底上げされているらしい。タナトスだという確かな証拠はないが、こんな非常識な現象はタナトスが原因だろう、常識的に考えて。  問題は、この症状がどちらなのか──すなわち、ただの疾患としての症状なのか、能力向上の類なのか。  一般的な病の症状として、金属が肌から露出するなんて類があるのか。それに厳密に言えば、拳銃はプラスチック製のものも現出している──プラスチックは体に内包されているのだろうか。  ……能力向上の側だったとして、果たして何が上がったというのだろう。体から異物が出て、それが貧血を引き起こす。ただの厄介者じゃないか。  しかし発症から半年が経過したが、鉄分さえきちんと摂取すれば、常に顔色が悪い以外は至って普通だ。死ぬ気配は一切ない。
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