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このクレーターと大量の粗大ゴミは、マイに鉄分が必要なことが判明した一週間後に、耳はおろか、全身をつんざくような轟音とともに突然現れた。
その時僕とマイは森で銃を用いた狩りの真っ只中で、まさに鹿を射抜こうというタイミングだった。お陰で鹿には逃げられ、正体を確かめて、文句を言ってやろうという衝動で、僕らは音の方へと歩いた。奇しくも、マイは鉄分を欲していた。
クレーターは初め、砂埃に覆われてまるで全体像がつかめなかった。砂埃が晴れた時、そこに穴が空いていて、底にガラクタがあった。
マイは、おそらく本能のようなもので、緩慢な所作で瓦礫の中の携帯電話に手をかけ、口に入れた。
僕は怒鳴って止めたけれど、マイは飢えていたようで、僕の声を聞かなかった。
しばらく携帯電話を咀嚼したのち、マイは説明した。それは説明と呼ぶべきではない代物だった。
マイによれば、このクレーターは自分のために誰かが用意したものだというのだ。確かに、そろそろ鉄に困窮していた時期ではあった。マイが必要な鉄は日によってまちまちだが、多い日にはバケツ一杯分の鉄を摂取する。
正直な話、僕もマイもこの瓦礫には助けられている。しかしマイの仮説が正しかったとしても、その『だれか』は何のためにこんなものを置いたのだ。個人の力でできるものでは到底ない。組織が絡んでいるのは明白だ。しかしどんな物好きが、いちタナトス罹患者のためにこんなガラクタを配備したのだろう。ゴミだってただじゃない。この規模の鉄となれば、商品的な価値はおそらく一億を優に超えるだろう。
一億円の不法投棄。
「スケールが違うよなあ……」
「お兄ちゃん……」
と、マイが僕の背中を軽くつまむ。
しまった、考え事に夢中になっている間に、そんなに時間が経ってしまっただろうか。早く、食糧集めの続きをしなければ。僕らには毎日がサバイバルなのだ。
「あれ、誰……?」
マイが示した疑問符に僕もまた疑問を感じ、即座に振り返った。すぐに。出来るだけ早く。だって、マイの、妹の声が、ひどく怯えたように聞こえたから。
「…………」
それが目に映されるまでにかかった時間は、おそらく光の速さ程だったろう。しかし、僕の脳はそう認識しなかった。ひどく重く神経を伝った。
果たして、僕らが包囲されていることに気づく頃には、振り返って五秒が経っていた。
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