第十一話「不穏」

1/36
126人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

第十一話「不穏」

    1  ニューヨークのロウアー・マンハッタン、通称「ダウンタウン」と呼ばれる地区にあるチャイナ・タウンは、有名な観光名所でもある。  中国本土並に漢字表記の看板が連なり、数多くの中華料理店、屋台や出店が雑多に寄せ集められた街は、様々な国籍の観光客と現地人で賑わっている。  その人混みを縫うように、珍しい金色の瞳を持った赤毛の男が、目的地目指して進む。  一見十代の少年にしか見えない彼は、肩がぶつかった革ジャン姿のいかつい白人男性にも怯むことなく、相手を無視して目当ての店に向かおうとした。  ぶつかったチンピラはその態度が気に入らなかったらしく、「おい」といきなり彼の細い肩を掴んだ。 「てめえ、人にぶつかっておいて挨拶なしか」  ノア・エイリーは因縁をつけて来た“無知な人間”を一瞥し、一言「放せ」と呟くように言った。 「ふざけんな、クソガキ……」  尚も喧嘩腰のチンピラはしかし、最後まで台詞を口にすることは叶わなかった。  苛立ちがピークに達していたノアは、隣で店を出していた串焼き屋の長い竹串を手にすると、それを何のためらいもなく相手の頬に突き刺した。  まさに一瞬の出来事だった。     
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!