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「嘘だ! 私は望んでなんかいない!」
女は憐れむように私を見て言った。
「かわいそうに。望んで得た結果が、余りにも大き過ぎて受け入れられないのですね。貴方は最初、以前よりも生き易くなったと感じたはずです。そして何でも言える、遠慮することのない自分に酔いしれたことでしょう。でも周りが離れていき、生き難さを感じた。前以上に。でも、それは当たり前なのですよ。虎は王なのですから。そして王とは力を得る代わりに孤立するのが世の常。なんら不思議なことはないのですよ。もう一度言いますね。貴方が望んだことなのですよ」
女の語る声が言葉が私を埋めていく。
そうか。私が望んだことだったのか……。
私は、獣臭い息を吐く虎を見た。良く見れば気品すら漂うその姿に気づく。艶やかな毛並みに、王たるに相応しい体躯。これが私の内に潜む虎。
私は立ち上がり、女を見て言った。
「私にはこの虎を飼い慣らすことは出来ません。お願いです。猫を返してください」
女は溜息をつき、私に言う。
「そうですか。それは残念ですわね。もうちょっと飼ってみればとは思いますが。では、また捨ててくださいな」
私は虎に近づき、そっと頭に手を置いた。「すまない。私には飼うことが出来ないんだ。さあ、何処にでも行きなさい」
「ガルルゥ」
一吠えして、虎は優美に暗闇へと走り去っていった。
「さて、今度は何が帰ってくることやら」
女の方を見て答えようとしたが、そこにはもう姿はなかった。
虚ろな時間は終わりを告げた。
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