傷痕

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「先輩が言っていること、全然意味がわかりません……」 彼女は子供のように頬を膨らませた。 「まだ人を好きになったことがないのよ。だから、相手と喧嘩したこともないし、相手の言動に狼狽えたりしない」 「好きな人とは喧嘩したくないじゃないですか。言動に狼狽えることが好きになるってことなんですか?」 「好きな人ができたらわかるわよ」 彼女は私の腕を掴んで、真っ直ぐに目を向けた。 「じゃあ、先輩が教えてください」 「私が?」 「先輩が言ったんですから、責任を持って私に教えてください」 「いやいや、あんたには彼氏がいるんだから……」 「今の彼氏とは別れました」 「……そ、そう」 「私に好きがどういうものかを教えてください。ここまで教授しておいて、これでお終いなんて言わないですよね」 「え、えぇ~……」 「責任を持って、私とずっと一緒にいてください」 「プロポーズかよ」 「プロポーズです」 「否定してくれ」 私は嘆息を吐いて、頭を抱えた。 何を言っても無駄のようだ。彼女の決意は固まっている。 「……分かったわ。但し、今後好きな人以外に、無闇に好きっていう言葉は使わないこと。好きって言われても、全く知らない人とは付き合わないこと」 「分かりました。先輩以外に好きって言わない、浮気もしないってことですね」 「え。私は以外の方に該当しているつもりだったんだけど……」 「私、先輩のこと好きですよ?」 「いや、だからその好きっていうのは……」 「これからよろしくお願いしますね、先輩」 「え、ええ。よろしく……」 私は、最後のボタンを掛け違えた。
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